細田守監督の新境地、私たちはこう受け止めた そこ☆あに『未来のミライ』特集まとめ

今回は、ただいま劇場公開中の夏休み映画『未来のミライ』特集です。4歳の男の子とその両親、生まれたばかりの妹という4人(+1匹)家族の物語、なのですが、ご存じのように巷の評判はアレコレと…。では、まさに子育て真っ最中の那瀬ちゃん&美樹ちゃん、そして子育て時代がちょっと懐かしいくむさんの3人は、この作品を一体どのように受け止めたのでしょうか。自分の目で観てきたからこその想いを、ホンネで語っています。

そこあに「未来のミライ」 #543
「そこ☆あに」543回目は『未来のミライ』特集です。 細田守監督による劇場公開型アニメ。『時をかける少女』から数えて5作目となる今作の主人公は、4歳の少年くんちゃん。くんちゃんをとりまく家族の姿を描いてはいるのですが、ある意味でストーリーと...

■評価をチラ見して「そういう作品か」って思ってない?
くむ「これまで細田監督に関しては、作品の一部に対して苦手だなと思うことが続いたわけですよ。今回の作品も予告を見てこれは絶対合わないと思ったので、見に行く気はありませんでした」
那瀬「逆に私と美樹ちゃんは予告編で大変心を動かされて。一緒に赤ちゃん連れて見に行ったんですよ」
くむ「じゃあ二人が面白かったら特集しようか、という話になって。今、子育てしている二人のお話が聞ければそれで満足かな、くらいに思っていたんですよ。ただ、この作品、検索で悪いレビューがトップページに出てくるくらい叩かれているでしょ」
那瀬「そうですねえ。まあそれは…事実ですからね」
くむ「えっ? て思ったの。私はもともと合わないと思っていたんですけど、自分には合わなくても一般の人には合うんじゃないかと思ってた。でもここまで叩かれるって…一体どんな作品なの?と」
那瀬「逆に興味を抱いたわけですね」
くむ「逆にね。でも世の中の流れ的に悪いレビューが先行するっていうのは、いいことじゃないと思う。先週のアニゴジもそうだったんですけども。場合によってはそれで行かなくていいやとか、レビューを見ただけでそういう作品なのねと思ってしまいかねない自分というのが、だんだんと嫌になってくるんだよね。ゴジラの時も、結局は行った方がよかったじゃん、なわけだし。というのもあったからこそ、『未来のミライ』もこれはやっぱり見に行くべきなんじゃないかと」
那瀬「見て確認するべきですよね」

■どこが不評なのか、斜に構えて見始めたところ…
くむ「(客席の)子供達の笑い声がいっぱい聞こえてくる中、これ全然面白いんだけど……面白いぞ? 面白いぞ? と。ダメなところが全然わからないまま、30分くらいして、これは好きな映画じゃん!と思い始めて。そのままバンとはまって行ったパターンです」
那瀬「わたしも正直、だんだん楽しくなってきて。結果的に100分すごく楽しい時間を過ごしたなと思いました。ノンストレスで見られましたね」
くむ「ノンストレスが、人によってダメなのかもしれないね」
那瀬「考えたい人にとっては、もうちょっと負荷かけてこい! と思うのかもしれないですね」
くむ「私の中では、これは細田さんの新境地なんじゃないかと思って。このタイプの作品を、東宝がこれだけ金かけて宣伝してたくさんの劇場で1日何回もやっているわけでしょ。これをこの企画でやったというのは、ある種すごいなと思うんだよね」
那瀬「それこそ、時かけサマーウォーズの流れからきて、この企画にGOを出した意味というのはちょっと考えたいですよね」
くむ「だから、プロデューサーすごいなと思いました」
那瀬「細田監督って、良くも悪くも…になるかもしれないですけど、ご自身の経験をすごく投影される方じゃないですか。今回も、ご自身が子育てをしていく中で感じ取ったこととか、すっごい細かい描写とかを見せてくれたじゃないですか。だから、これはプロデューサーのひとつのサインかなと思っていて。細田守という作家性というか、これからも年をとっていく細田守に金かけるぜ俺たちは! みたいに言われた気がして。だから極端な言い方すると、3年後は3年経った父・細田守が見せられるものをきっと見せてくれる。今の細田守監督しかつくれない時を切り取っている作品だな、と思いましたね」

■成長って本当に小さな事で、前に進むばかりじゃない
美樹「私、いま子供を育てていて、すごく完璧を目指しちゃうんですよね。どこを諦めていいのかも、手の抜き方もわからないから。だからこのお母さんみたいに、仕事も子育ても頑張っているけど、こんなに怒ってばかりでいいのかなと自己嫌悪になる感じもすごくよくわかる。でも最終的に、お父さんとお互いに『そこそこで親として十分だよね』って言葉が出ただけで、夫婦としてすごい成長だなと思って。いつかそんなふうに、自分がそこそこな母親で十分だよと言えるようになりたいなと、すごく思ったので。」
那瀬「うんうん」
美樹「きっとあの数分後には喧嘩もすると思うんですよ。そこそこで十分なんて納得できたようで、ただあの時すっと言えただけかもしれないけど。でもそれが言えただけで、そこを切り取っただけでも十分いいなと思えたから。ちっちゃな成長だけど、こんなふうにアニメの映画で見れるって面白いなと思いましたね」
那瀬「それは私、くんちゃんにも同じことを思って。5回ですよね、彼がいろんな世界にジャンプするのって。その度に彼は赤ちゃん返りをしているじゃないですか。だからそれに対して『彼は成長してない』と言う気持ちもわからないではないですけど、子供って絶対そうなんだろうと思うんです。ちょっと前進したかと思えば赤ちゃん返りして、前進したかと思えばまた、の繰り返しなんだろうなと」
美樹「これができたから次はここまで全部できる、というわけじゃなくてできないこともある。ちっちゃいことだけでも、親としてはこんなことができるようになったんだと成長に見えるし。その1個1個を切り取って成長なんだと、今は納得できる気がしますね」

“あるある”が詰まった夫婦の会話や、子供の仕草・行動、作品のあちこちに細田監督の経験に基づくであろうリアリティが散りばめられています。一方で、作品には度々”リアルではない世界”も現れるのですが……アニメーションとしての受け止め方の違いが評価の分かれ目かも?! 夏休みに楽しむエンタメ作品でありながら、個人の視点が世界を紡ぐ単館系小作品のような手触りも感じられる、細田監督の新境地。この作品を経て、監督が次にどんなものを作るのかも気になります。

(笠井美史乃)

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