あいつら最強の世界に生きてるぞ! そこ☆あに『映像研には手を出すな!』特集まとめ

今週は『映像研には手を出すな!』特集です。あの個性的な世界観をあの湯浅監督がどうアニメにするのか、放送前から期待度の高い作品でしたが、毎回毎回その期待をスッと上回っていく、しなやかで鮮やかな手腕に感服せずにいられません。その根底にある原作者の若さと情熱にも、ものをつくる人間ならきっと感じるところがあるはずです。必然、トークも濃い内容となっております。

そこあに「映像研には手を出すな!」特集 #623
「そこ☆あに」623回目は『映像研には手を出すな!』特集です。 原作は大童澄瞳による月刊!スピリッツに掲載のマンガ。2016年9月号より連載、現在単行本5巻まで発売中。 湯浅政明監督によるアニメ版は2020年1月より放送中。 「高校1年生の...

■出会いはご都合、でもそこ気にすんな!の世界
那瀬「(ご都合を)気にすんな、というのを割と舞台で表している気がするんですよね。リアルな感じと、ファンタジックな感じがごちゃ混ぜじゃないですか。この街、おかしいでしょ」
くむ「そう、おかしいんですよ。これは彼女の想像の中の街なのか、リアルな街なのか、どっち?という感じですもんね」
那瀬「そうなんですよ。だって、川の上にあるマンションとか、湖を埋めた学校とか、そのあたりがファンタジックなのに、急に出入り口に室外機が置かれたコインランドリーとか出てくるんですよ。ファンタジーとリアリティをユサユサされている感じがして。そこに水崎氏が急に現れて急に仲間になっても、もう、いいねっ!って思っちゃう」
くむ「最近のアニメって、リアルな地域描写多いじゃないですか。町並みがこんな変な状態になっているものって、SFでもなければ滅多に見ないじゃない」
美樹「古き良き部分と、すごく新しい感じが融合していて。この世界観を見ていると、原作者自身が設定厨なんだなと思って見ちゃいます」
米林「それ思いました! お話自体、あったらいいなみたいな世界観で。都合よく欲しいものが手に入ったりするのが、空想で『こんなところに都合よくボートが…』というシーンに似ている感じがして。こんな学生生活いいな、っていう想いが伝わってきます」
那瀬「すごいよね。描く世界でそれを納得させているのが面白いなと思います」
たま「この作品自体が、大童先生の『私の考える最強の世界』ということなんですよね。これ、ずっと作中で言っているキーワードだし、本当にそれそのものなんだって感じがします。浅草氏=大童さんの部分がすごく強くあると感じていて。現実にあるものが出てくるリアルな世界観て、自分の妄想が現実の世界を侵食していくような作り方だけど、(この作品は)逆で、自分の妄想に読み手を引き込むような作り方という感じなんですよ。これ結構、体験として面白いですよね」

■生徒会予算審議委員会、混沌の中でクリエイターは
那瀬「ここで上映した短編は、この『映像研』の作品性をかなり表していると思うんです。どちらかというとアニメの方の。というのは、最近のストーリー至上主義なところはやっぱり否めなくて、ゆるいオタクが許容されるようになって、アニメファンの多様性が広がっていくのと同時に、わかりやすいストーリーの部分にフォーカスする人は増えていると思うんです。自分を含めて。でも、この短編はストーリーを捨てたわけですよ。で、アニメーションの面白さだけを追求しきった。というのがなんかすごく痺れて。そしてその楽しみ方を懇切丁寧に説明してくれたわけじゃないですか。感動しましたね!」
くむ「あれが完璧に完成していないのもいいですよね」
たま「ああ、そうですね。すごく面白かったです。同じバンクを使い回すところの違和感とか、『塗り忘れでパカってますよ』をちゃんとパカっている状態で再現している面白さ。学生作品として上手すぎるんだけど、あるある、そういう削減とかわかる、みたいな、できないことをどう努力するかというのも試行錯誤じゃないですか。ぎこちなさに満ち溢れた未完成さというのは、すごくグッとくるものになっていると思いますね」
くむ「クオリティがスゴすぎてもダメなわけだよね。一応学生の作品なわけだから。だけども、彼女たちならやるかもしれない、と見せているところがいいんですよね。その上で、天才的に全てが出来上がったわけではない。苦労の末、可能な限りのことをやったのがあの映像で、本人たちはその完成品を見ながらツッコミを入れているというね」
たま「ひとつ終わったらすぐ反省会という姿勢。すごくクリエイターですね」
くむ「次のこと考えてますからね。予算をもらったらそれで何をしようと言っているところに、生徒会が予算を通したわけですから」
たま「まあ、あいつら金なくてもやるんじゃね?とは言われてましたけど(笑)」

■みんな大好き! 敏腕すぎるプロデューサー・金森氏
くむ「この3人の中で一番ファンタジーは誰かといったら、金森氏ですよ。パッと見は浅草・水崎の方がファンタジーっぽく見えるんだけど、各アニメスタジオで今一番欲しいのは金森さんでしょ」
那瀬「そりゃ間違いない(笑)。なかなかあの誰でもできそうなことはできないんですよ。自動中割りソフトのことをもう学習済みです、とは言えない。調べるところまでしか私できてないわ、とか…金森さんを見てると反省するんだよね」
くむ「(画面に)いない間にどれだけ作業してるのこの人は、という感じでしょ」
たま「金森さんが疲れて寝てしまっているところを考えると、他の2人が作業している間、絶対に動いてくれているんですよ。なんてできるプロデューサーなんでしょう。あれだけアクが強いクリエイター2人をうまく転がしているところも、ものすごい手腕ですよ。しかも怒り出さないで『チッ』程度で許してくれているところ、ぐう聖ですよ」
那瀬「そうだね。不思議と、浅草氏とか水崎氏の方が、なんか思い浮かぶクリエイターがいるんだよな…という」
くむ「そこ☆あにでインタビューに行ったりするようになって、実際にアニメーターさんの話もリアルに聞くようになったので、なおさらクリエイターに対してはわかる部分があったりするわけですよね。でも金森氏がやっていることは、プロデューサー、制作進行、ディレクター…全部、言ってしまえば社長ですよ。その仕事内容まではさすがになかなか聞くことがないので」
那瀬「そうなんですよね。特にプロデューサーはかなり不透明で。不透明な割にやっていることが多いと、この作品で伝えてくれているのはすごくいいなと思う。金森氏が働いていることを見せる手段として、結構金森氏の心の声が出るのが好きなんですよ。プロデューサーとしてここは転がした方がいいか、とか、なかなか口からは出てこないし、他の作品でも言わせないことですよね。でもそこを出すことで、この3人の役割分担がより明確に見えるなって思います」
くむ「彼女がいるから成り立っているんだよ、このアニメ。部活としても成り立っているけど、彼女がいるおかげで、より他の2人の魅力も描けていると思います」

創造しないと生きていけない人たちの頭の中がこんなに最強なのだと思い知らされると、もはやアニメーションは人間の業なのではないかとすら思えてきます。NHKにはぜひ、これからの世界を生きるすべての人にこの作品を届けていただきたいです!

(笠井美史乃)

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