今週は、今期放送中作品から『イエスタデイをうたって』特集です。10代の甘酸っぱさとは違う、ほろ苦さの混じり始めた20代の恋。ノスタルジーを感じさせる設定と、丁寧な演出が、飾らないながら上質なドラマを描き出しています。
■携帯のない恋愛、すれ違いの切なさを思い出す
美樹「約束の電話とか、待ち合わせに遅れる連絡も、すぐにできない。この不便さが生むドラマがいいなと思いますね」
くむ「当時は待つこともあったし、待たせることもあったし。場合によっちゃ1時間2時間も、なかったわけじゃないなとか。タイミングによっては、家に電話をかけて連絡が取れない場合だってあるわけで」
美樹「そうですねえ」
くむ「この作中では出てこないんだけど、留守番電話が結構普及していたんだよね。だから、留守電に入れてもらって、それを外からリモートで聞くことができたので。でも、それに対して返信はできないわけだよね」
美樹「不便だけど、きっと来てくれるとか、そういう想像をする余地があるところがいいなあ」
くむ「そういうすれ違いは日常茶飯事だったのかな。でもその代わり、待つことにはみんな慣れていたんじゃないかなという気がします」
那瀬「なるほどね。今って、待てないですよね」
くむ「待てないですね。確かに」
那瀬「でも、携帯に連絡が来ないってよっぽど何かヤバいことがあったのかな、という心配はするなあ。事故にでも遭っているんじゃないかとか。そういう心理は割と同じかなと思いました。若い人たちも、今は今できっとみんなヤキモキしてるよ、とは思うから」
くむ「逆に、連絡できるのが普通の時代だからこそのヤキモキ感というのはあるでしょうね」
那瀬「1時間くらい待てるゆとりはないにしても、彼らの恋愛観は今でも通じるものがあるし。多分、若い人はこの作品を、昔はこうだったんだと、最初はハスに見ているかもしれないけど、あ、同じだ、って思うだろうなと考えると、なんかいいですね」
■最終的に幸せになれる答えは?
くむ「晴ですよ、やっぱり。確かに、陸生は晴の前では自分を出してますよね。あのお好み焼きのシーン、良かったと思うので。うまいですよ、演出がもう、完全に晴を推している感じですから」
那瀬「でも晴を幸せにしてもらうためには、とりあえず榀子は通った方がいいと思いません? 榀子を通らずに晴に行っても、なんか、晴は…晴は辛いよ…」
くむ「晴は待っていてくれるのか。いつまでも2番手で待っていてくれるのか。しかも、晴にも恋してくれる人はいるわけですからね」
那瀬「そうだよ! 晴、そんな待ってなくていいよ!」
くむ「この作品すごいと思うのが、もうすでにフラれているでしょ、何人も。陸生は榀子からフラれているわけですし。晴も湊をフってるわけで。その年代って、なんとなく付き合っちゃうことって普通にあると思うんですよね」
那瀬「あぁ…」
くむ「好きな人、じゃなくて、好きでいてくれる人と付き合ったりとかさ」
那瀬「うーん…でも、好きな人がいたらそうはなれない気もするな。好きな人がいなかったらなとなく付き合っちゃうかもしれないけど。むしろ、20代くらいになってからの方が、ちょっといいなと思っている人はいるけど、言い寄ってくれる人がいたら…ってなる気もするし」
くむ「10代の特徴なのかもしれないね」
■アニメならではの繊細さで描く、リアリティある20代の恋
美樹「心の機微を描くのが上手な作品だなと思って。2話で、友達をやめようという榀子の言葉に、下心ありの友達でいると宣言した陸生のシーンが本当に印象的で。道路の白線で榀子と陸生を隔てて、その足元を写して、白線に一歩踏み出して陸生が話し出すという。榀子に歩み寄る心情を映像で表現していて。こんなドラマチックな演出を、アニメでやるからこそすごくいいんだなという。映像的な力もすごくて、公式サイトで、美術監督の宇佐美さんと美術設定の藤井さんのインタビューがあるんですけど。そこでキャラの心情で背景の色を変える指定があったという話していて。それが効いているんだろうなと。言われなきゃ気付かないことかもしれませんけど、このキャラがこういう気持ちなんだと、受け取る側のアシストとして背景の色を決めているというところに、全てが人に寄り添った作品なんだなというところにこだわりを感じで。すごく作り込まれているんだと思いました」
くむ「まさにアニメならではですよね」
那瀬「アニメならではという点では、実写との違いってカットを多くできるところだと思うんですよね。実写だと、足元写して顔写して、みたいなことをされたら邪魔じゃないですか。でもアニメはそれができる。それこそ、白線を踏み出すとか。その一歩をパッと写せるのはアニメの強みだなと思う」
くむ「面白いドラマもたくさんあるんだけど、アニメっていいなと思わせてくれる。青春ものというとどうしても高校が舞台とかが多いんだけど、なかなかない、社会人になるかどうかくらいの年齢のドラマ。恋愛に対するリアル感があっていいですよね。高校生くらいの淡い感じとは違うからさ」
美樹「そうですね、その時代、そこは絶対通るじゃないですか。就職どうするとか、そこに恋愛が絡んで別れるかもしれないとか。絶対通ってくるところだからこそ、どこか引っかかるところがあると思うので。ここを切り取ってくれたことが、この作品の面白いところだなと思いますね」
何かが動き出しそうでいて、なかなか決定的なことが起こらない。ヤキモキするけどそれがいい…。1クールもそろそろ終盤。原作全11巻を描き切る形になるのでしょうか。幸せな結末を願いたいと思います!
(笠井美史乃)