今週の特集は、ただいま劇場公開中『ヴァイオレット・エヴァーガーデン 外伝 – 永遠と自動手記人形 -』です。ヴァイオレットの成長を中心にしたテレビシリーズとは少し違った角度で見た「外伝」ストーリーではありますが、ファンにとっては嬉しい描写や演出もたくさん。何より、あの美麗で繊細で表現力豊かな映像を大画面で堪能できる喜びは、劇場ならではです。3週間限定上映なんてもったいない…と思っていたら4週目以降の上映が決定しましたので、間に合わないと思っていた方にも救済のチャンス。ぜひ劇場での鑑賞をお勧めします!
■本編からの時間経過も嬉しい、初心者にも勧められる劇場版
米林「テレビシリーズに出てくるシャルロッテ姫と王子様の恋文のことを噂する描写があったので、多分それがまだ記憶に新しい時期のお話ですね。あと、それの3年後、2つの時系列が入った作りになっていましたね」
くむ「3年後が描かれるなんて思ってもいなかったからね。純粋に最終回の後か、本編中のどこかが描かれるだろう、でもヴァイオレットとギルベルトのお話は来年の劇場版、と考えると、今回は何を描くんだろう…と前回の特集で話していたと思うんですけど」
美樹「未来が観れるとは。ちゃんと時を進めてくれるのは、京アニ作品の大きな魅力の一つだよなと思いましたね」
くむ「ここを経て次の劇場版に繋がっていくんだな、という感じがよく描かれていたなと思いました。先にこの作品から見てテレビシリーズに入るというのもありでしょうし。いろんな見方ができる。今回、中川さんは劇場から見て、テレビシリーズを一気見したんですね」
中川「そうなんです。あらすじとかもほとんど見ずに入ったんですけど。劇場版は劇場版でお話の完成度が素晴らしいのと、絵が綺麗で、1個1個のディテールがすごくて。めちゃめちゃ面白かったんですけど。その後に本編を一気見して、そこでTVアニメ版から続く流れとかがちょっと拾えたので。そういう見方しても面白かったし、単純に劇場版だけ見てもすっごい面白いと思いました」
くむ「劇場で話題になっている作品て、そこから入る人もいますからね。今回はそういう受け皿の要素もありながらも、やっぱり本編のファンはより楽しめるものになっていますね」
■手の描写、足の描写…映像が語る「言葉以外」に伝えるもの
那瀬「足(脚)って、京アニって感じしません? 映画『けいおん!』のラストシーンじゃないですけど、すごく印象的なところに足を使ってくるなと、この作品でもすごく思って。お風呂のシーンでも足元だけ映すところもあったりして。やっぱり足で関係性を描くというのは、ひとつの技として京アニの真骨頂だなと思いましたね」
美樹「私は逆に手にすごく注目しました。最初はヴァイオレットを受け入れていなかったイザベラも、手で心を許したなと伝わる感じがあって。イザベラとテイラーの出会いも手を握ってくれたからで、その後も雪だるまをつくった後に暖めあったりとか、二人の絆にとって大切なものだったなと思って。自分の話になっちゃうんですけど、私いま1歳半の子供がいて、まだ言葉は話せないけど、すごく手で意思を表現するなと実感していて。手って語ることができるんだなと。言い換えると、人の武器なんだなとも思って。それは人を傷つけることもできるし、温めることもできて。皮肉にもヴァイオレットは温度のある人手だった時には人を殺め傷つけていて、逆に温度のない義手になってから初めて人を温められる優しい手になったんだなと。この外伝でそれが丁寧に描かれたことで、バイオレット・エヴァーガーデンという作品がそれだけ手を大切に描いてきことに改めて気付かされました」
那瀬「美樹ちゃんの話を聞いて思ったのは、手の描写と足の描写の役割の違いのようなところかな。手は物語自体を語っている感じがして。足は…なんだろう、気付かなくてもいいというわけじゃないけど、関係性みたいなものがどのように近付いていくのかを語っているような感じがするね。その描き分けもあったのかもしれないですね」
■「あなたを守る、魔法の言葉」短い手紙に込められた思い
くむ「(テイラーへの手紙に)もっとたくさん言葉が綴られているのかなと思ったので。だから、すごい短い言葉だなと驚きました」
米林「ちょっとルクリアのときと似ていますね」
美樹「わかります。ヴァイオレットの真骨頂じゃないですけど、短い手紙でストレートに心を伝えるというのは、ルクリアの手紙を想い出しました」
中川「逆に、だらだらと愛の言葉を書くよりも短い方が心に残るという狙いなのかなと思いました」
那瀬「考察したい気持ちもわかるけれど、いろんな複雑な思いが絡み合ってこれに行き着いたんだな、でいい気もするんだけどね」
美樹「幼いテイラーがまだちゃんと喋れないときに、恋しいとか嬉しいとか幸せとかを『ねえね』という言葉で表していて。『ねえね』はエイミーのことで、だからエイミーという言葉を選んだのかなという感じがしていましたね」
くむ「今はエイミーじゃないわけだからね、イザベラは。だからなおさら、エイミーと呼んでくれる人に伝えたかったのかなという気もするし」
那瀬「テイラーへの愛情があった上で…もちろんテイラーには愛情しかないわけだけど、エイミーのエゴでもあると思う。でもそれすら私は愛情だと思うから。テイラーがいてくれる間は、ずっとエイミーは生き続けるんだと思う」
短い言葉であっても、手紙だから伝わる思いがある。それを人に届ける仕事がある。手紙が繋いだ愛情や人の関係性を描きながら、同時に時代の変化も予感させるエンディングを迎えた物語。伝えることの意味や価値が変わっていく時代の中で、変わらない想いが伝わる日は来るのか、次の劇場版を楽しみに待ちたいと思います。
(笠井美史乃)