今週は劇場作品『空の青さを知る人よ』特集です。「あの花」「ここさけ」に続く…という謳い文句が付きがちですが、1作ごとにしっかり新しいものが生み出されていると改めて感じられる作品になっています。今回は、30代の大人の目線が作品の軸のひとつになっていることもポイント。いただいたコメントからも、そこが刺さった方が多かったことがうかがえました。実感のこもったご感想を、ありがとうございました!
トークの内容は作品の全編に触れています。フレッシュな気持ちでご覧になりたい方は映画鑑賞後にお聞きいただくことをお勧めします。
■「あの花」「ここさけ」を経て、変わり続けることの心地よさ
那瀬「『あの花』が2011年、今から8年前ですよね。いろんな意味で8年が経ったなとは思いましたよね。この3本を知っているからこそ、作品のカラーがグラデーション的に変わっている様を見られた感じがするし。一緒に歳をとらせてもらっていると感じるのは、いいなって思うところはありましたよ。いいなって、いろんな意味を含めてるけどね」
くむ「(笑)。私はこの3部作の中では今回の作品が一番好きでした。正直やられたなと思ったんですよ。このメンツでこういう作品を作ってくるんだというのが」
那瀬「くむさんは、けっこう毎回これが一番だになっている感じですね。やっぱり『とらドラ!』から長井龍雪監督が好きなんだろうなというのを、その感想から感じます」
くむ「確かに、まあファンですよね。この監督だから良いみたいな見方は、しないことはないですけど、でもそれは作品が面白いか面白くないかとはまた別問題。実際、3本の作品を見て自分の中でこの監督の作品は好きなんだなと改めて感じさせてくれたかな。この座組も含めて」
那瀬「でもそうやってクリエイターの今後が楽しみになれるというのは嬉しいですよ」
くむ「そうですね。先が楽しみになる作品を作り続けることができるかといったら、人によるじゃない、はっきり言って」
那瀬「もちろん、この監督に任せれば安心という良さもあるとは思うんですけど、ちゃんと変わり続けているなと感じることや、その変化を受け入れがたく思わないこの感じ」
くむ「心地いいんだよね」
那瀬「ちゃんと年月による変化もあるし、一緒に見てきた流れみたいなものを感じられるのは、ファン心が強くなりますよね」
■生きてきた時間が感じられるキャラに、自分を重ねて荒ぶる
美樹「なんか自分の人生と照らし合わせながら見てしまっている感じがして、自分の話をせずに感想を言えないなという作品ですね」
米林「わかります。私も好き嫌いで言ったら30歳の慎之介がもろに自分と被っていて、最初はイライラしました」
くむ「あれはイライラさせるようなキャラ設定ですもんね。でも鏡で自分を見たときにどう思うかですよね、大人にとっては。だから、イライラするけどしきれない、自分にイライラするみたいなさ」
米林「そうですそうです」
美樹「これは環境や状況で違いますよね。自分は結婚してしまっているから、ある意味このエンディングと近い人生な気がしてしまって。慎之介の姿もイライラするというよりは、そういう気持ちもわかるから、という思いで見れて、あまり心の荒ぶりがなかったですね」
那瀬「それはわかるね。でもこの作品を見て荒ぶる人もたくさんいるだろうなと思う」
美樹「そう! コメントを見て思う」
那瀬「あおいも、慎之介も、あかねも。今回はこの3人が感情移入先というか、自分を重ねてしまう先で、しんのだけは仕掛けなのかな。だから3人はしんののセリフに動かされているなと思うところはあった。しんのって、褒めてくれるじゃん。あかねに対して可愛いと言ってくれた人が、果たして30になるまでの間にどれくらいいたんだろうかとか。あおいに対してすげーじゃんて言ってくれたりする、そんな人がリアルにいたかな、あるいは自分にはそういう人がいたかな、みたいに思わせてくれるキャラクターだなと思って。ファンタジーとまでは言いたくないけれど、自分にそういう出会いがあったかどうかを振り返らせるキャラクターだなって」
美樹「それこそ、ミチンコみたいに自分のことを好きではいてくれるのに、言葉にはしてくれない、みたいな方が多いからね(笑)。空気ではわかるけど、じゃあ言ってくれよという。ストレートなしんののかっこよさ、みたいな人は確かにいないよなあ」
■自分の人生を生きて大人になったひとの「いろいろ」
くむ「あかねはまあちょっとした理想的女性かな、と思いますけどね。慎之助が酔っ払ってホテルに送って行ったじゃないですか。あのシーンが、岡田麿里らしさを感じてけっこう好きなんですよ」
那瀬「うんうん」
くむ「あそこでのあしらい方がプロじゃん、ていう。慎之助の汚い言葉も、カッコ悪いけれど男って言いそうな気もするんですよ、そういう時に。しかも慎之助はそこで嫌われてもいいという気持ちもあると思うのね」
那瀬「むしろ嫌われにいったでしょ、あれは」
くむ「それもわかったうえで、あかねはああいう態度を取るわけですよね。なんじゃこの母性の塊のような女は!っていうさあ(笑)。あれはねえ、やられますよ。ちゃんと好きだからこそ受け入れないわけですよね。好きだったわけでしょ、彼女はずっと」
那瀬「そうですねえ」
くむ「たぶんね。『いろいろあったわよ』っていう。あのいろいろにすごく彼女の人生が詰まってると思うんですけれども。本当に彼氏がいたことがあるかどうかはともかくとして」
那瀬「うん、あれはいたでしょ」
美樹「私、あそこがめっちゃ好きなんですよ。『それなりにあった』っていうセリフ、うわたまんねぇ…と思って。ちゃんと人生を感じさせてくれる、この一言で。あそこがすごい好きでした」
世間的に青春は若者の特権ということになっていますが、歳を重ねたところで青さや迷いからそうそう脱出できるものではありません。変わるものといえば、自分で決められる範囲が少し広がるくらいです。その少しを、自分ならどう使うのか…。大人にこそ見てほしい“青春”の映画です。
(笠井美史乃)