劇場作品の特集が続いていますね。今週は『きみと、波にのれたら』特集です。強烈なビジュアルやアーティスティックな演出が印象強い湯浅政明監督ですが、それに比べると今回の作品は超シンプルでストレート。湯浅監督らしいアニメーションの躍動感はしっかり活かしながら、また新たなチャレンジを見せてくれています。
たくさんの方に見ていただきたいので、前半はネタバレなしのトークとなっております。まだご覧になっていない方は23分25秒あたりでいったんストップするのがオススメです。こちらの記事はネタバレなしでお届けします!
■そこ☆あに4本目の湯浅監督作品特集、その作風の変化は
くむ「(湯浅監督の作品は)どちらかというと苦手だったんですけど、ルーがね。作品を見る時って、その時の本人の精神状態とかによっても色々変わったりするじゃない、面白い面白くないも含めて。多分その時私が求めていたのはルーだったと思うんですよね。劇場から出るときに、ステップを踏みそうな作品だったといのが私の第一印象だったわけですけど。そこから監督のファンになった私が『デビルマン』を経て」
那瀬「そうでしたね。『夜は短し』もご覧になったんでしたっけ?」
くむ「見ました。『ルーのうた』と『デビルマン』の後で見たので、受け入れられるような形でしたね。でもやっぱり際どいよね、かなり」
那瀬「まあ、そうですし。この4本を並べてみても、ルーからのデビルマンなんてエラい違いじゃないですか。そこからさらに今回の『きみと、波にのれたら』の、この変化。許容量の広さ、という言い方の方が正しいのかもしれませんね。とにかく、いろんなものを持ちすぎている方なんだな、というのが驚きでした」
くむ「ある種、監督のブランドがある人じゃないですか」
那瀬「そう思います」
くむ「その人に求められているものを、求められている何倍かの数字で叩けば、ファンは喜ぶと思うんですよ。でも、そうじゃないものを常に出そうとしてきているわけでしょ」
那瀬「ブランドになった監督さんて、どちらかというとその監督さんのマインドというか、考え方に傾倒するファンが多いのかなという印象があるのですが。湯浅さんて、もちろん深く見ればたくさん共通しているマインドがあると思うんですけど、それでも全然違うものを見せていく人なんじゃないかなと、今回改めて思いますね」
■予想外のことがほぼ起きないストレートさ、その洗練の程がすごい
たま「起こることは全部予告の通りなんですけど、予想外というか、ネタバレと言えるほどのことといえば、自分のエモーションの高まりかな、という気がします。まさかこんなに上がアガるとは…! みたいな感じですよね。だって、普通に私泣いて出てきましたから」
米林「私も泣きました〜」
那瀬「湯浅監督はやはりアニメーター出身の方で、共通するポイントはずっと辿られているなとは思うので。でもその見せ方が、『マインドゲーム』から辿ってきた自分としては本当にわかりやすい描き方になっていて。そこ!そこ湯浅!みたいなところがいっぱいあるのが、嬉しくなるというか。エンタメをとことん突き詰めたな、という感じはしますよね」
たま「らしさは失わないまま、やりたいことはストレートに伝えられるように、めちゃくちゃ頑張ったという感じがしますね」
那瀬「いろんな複雑なことをずっとトライしてきた監督だから。それが洗練されて洗練されて化けた、という感じでしたね」
米林「公式サイトに、今までは登場人物が多すぎたので、キャラクターを絞ってみました、とありましたけど。もうそのままでしたね。すごいわかりやすいというか。だからこそ、キャラクターに感情移入しやすかったのもありますし、すごく泣けました」
■思い出と共に心に残るあの曲…の感覚を映画の中で再現
くむ「この主題歌、作中でとにかくめっちゃかかるんですけど。最初、そんなにすごくいい曲とは正直思ってなかった。一応、昔流行ったラブソング、みたいなテーマなんですよね。逆に、だからこそあえて印象に残らないのかもしれないと思うくらいの」
たま「曲の良さだけで引っ張るみたいなタイプじゃなくて、普通に耳に入れて、心地よく流していく感じの曲でしたよね」
くむ「だから、この曲がめっちゃ良くて感動するというんじゃなくて、日常ずっと聞いていて耳に残っているよね、という。過去を振り返った時にポンと出てくるような曲なんだよね」
たま「絶妙なバランスだと思うんですね。曲が凄すぎて記憶に残っているんじゃなくて、思い出と紐づいているから大事にしている曲、という感じじゃないですか」
くむ「そうなんですよ。それをまさにこの映画1本観終わった時に口ずさんでしまうようになる。予告を観たりするとそれだけでうるっときてしまうくらいに全部がつながってくるというね」
那瀬「演出の力もあるし。今までは映像面に出ていましたけど、これがドラッギーを操る湯浅監督の手腕かと、今回はこういう方向性で思い知りましたね」
くむ「でもこれってさ、アニメじゃなかったら夏休みとかに女子高生あたりをターゲットにしたドラマ映画みたいなのがあるわけじゃない。泣けるというのが基本的に売りの。そのタイプか? って思うんだけれども、ちゃんとアニメーションなんだよね。アニメじゃないとできないことをやっている。このバランス感覚は、また新しい領域に入りましたよね、湯浅監督は」
キャストや主題歌がタイアップくさいかも…という理由で敬遠している方がいたらもったいない! そのあたりを抜きにして、ストレートに楽しめる上質エンタメ作品です。意外と素直な気持ちになれる自分に気付けるかもしれませんよ。
(笠井美史乃)