11月、市ヶ谷に面影は消え… ボンズ20周年記念展「DARKER THAN BLACK -黒の契約者- SPトークショー」レポート

「東京アニメセンター(市ヶ谷 DNPプラザ内)」では現在、『ボンズ20周年記念展』が開催されています。設立から今年で20周年を迎えたアニメスタジオボンズのこれまでの歩みを振り返る大規模な展示会で、作品の紹介や原画・セル画、その他の貴重な資料が展示されています。期間は10月26日から11月25日まで。

これに合わせ、11月4日には同施設内にあるイベント会場にて「DARKER THAN BLACK -黒の契約者- SPトークショー」が開催されました。『DARKER THAN BLACK』(以下、DTB)といえば今年4月に10周年記念のイベントが開催されたことも記憶に新しいところですが、早くも半年後にまたこうしたイベントが開かれるというのは、ファンにとってはうれしい限り。参加申込は予約開始から40分で満了したとのことで、いまも冷めないファンの熱さが感じられます。

■デザイン画は200枚以上!キャラ作りの裏側

登壇者は、岡村天斎監督、キャラクター原案の漫画家・岩原裕二さん、キャラクターデザイン・総作画監督の小森高博さん。司会進行はプロデューサーの大薮芳広さんです。


左から大薮芳広さん・岡村天斎さん・岩原裕二さん、小森高博さん

イベントでは最初に、第26話「桜の花の満開の下」が上映されました。本放送時はOAされずDVD/Blu-rayにのみ収録されたエピソードですが、大薮さんが来場者に訊ねたところ、見たことがあるという方がほとんどでした。今回も会場は精鋭ぞろいです。改めて見ても、26話は本編とは全く違った意味でパンチの効いた番外編だったわけですが、なぜこのような企画になったのでしょうか。

大薮「当時、未放送回を収録すると最終巻でもパッケージの売り上げが落ちないという噂がありまして…。(内容的に)本編にああいう話を入れようという構想はあったんですか?」
岡村「いや、全くないですね(笑)」
大薮「ファンブックか何かで、入れたかったと書いてあった気がするんですけど」
岡村「まあ、あってもいいと思うんですけど…」
大薮「結局、どこからこういう話にしようと?」
小森「俺も知らないです。あとで社長に怒られたくらいですから。お前ら、せっかく作らせてもらえるのに何でこんなのを作るんだと(笑)。もっと主役がカッコいい話とか作れるだろうと、めっちゃ言われました」

26話に登場した契約者(裸の男!)のように、DTBでは多くのエピソードでゲストキャラが登場します。メインの黒(ヘイ)たちからこうしたゲストまで、ほとんどのキャラクター原案を作成したのが岩原さんです。数は覚えていないものの「かなりの量を描きました」という岩原さん。大薮さんが今回のために岩原さんの原案ファイルをスキャンしたところ、モブキャラを除いてもその枚数は230〜240枚にも上り、「(キャラの引き出しは)ほぼほぼ出し切っている」(岩原さん)とのこと。会場ではその画像をスクリーンに映しながらトークが進められました。

岩原「最初は大まかなプロットだけいただいて、手探り状態で描いていましたね。能力バトルだと聞いていたのでもっと派手になるかと思っていたのですが、しっとりした内容だったので。第1話を見てようやく、こういうことなんだなと思いました」
岡村「だから最初に銀(イン)のデザインを見たときはかなり迷いがありました。でも、この線でいかないと頼んだ意味がないなと。その時点で自分が考えていたよりもマンガっぽいというか、派手な方向にシフトしたなというのは覚えています」
大薮「難しかったキャラは?」
岩原「黒は手探り状態でしたね。地味な青年という感じで、最初はもっと黒目が小さかったりしたんです」
岡村「こちらからも、絶対に美少年にはしないでくれという発注だったので、微妙なところを探るのは難しかったと思います。美形ではなく、でもよく見ると愛嬌のある、主役としてやっていけるような感じで、とお願いして。発注は言葉だけ。黒については自分のイメージスケッチがあったんですけど、一切見せなかった」

岩原さんの原案をアニメ向けのデザインにしたのが小森さん。もともと線が整理されている絵だったので特に何かをいじることはなく、「自分が描けるようにする」ことを重視したと言います。

小森「岩原さんの絵を見てそっくりに描こうとすれば多分描けると思うんですけど、時間がかかってしまうので。実作業で大量に描かなくてはいけないので、自分の中で咀嚼するということはやった感じです」

そんな中で、小森さんがこだわって設定したのが喫煙者キャラが吸うタバコの銘柄でした。
小森「探偵物語」の主役の松吉はキャメルでしたが、ノーベンバー11のはイギリスのタバコを探していたら「Death」というドクロマークのタバコがあったので、採用したけど、試しに買って吸ってみたら不味かった」

■移り変わる東京、10年後は果たして…

トークの後は登壇者3名によるライブドローイングが行われました。岡村監督は黒、岩原さんは未咲、小森さんは11月にちなんでノーベンバー11を描き、その模様がカメラを通してスクリーンに映し出されました。描き上げられた色紙は展示会場の出口付近に飾られているので、これから行く方は要チェックです。

ノーベンバー11といえば、会場である東京アニメセンターの目の前を通る外堀通り(市ヶ谷付近)は、第5話・6話で黒と戦った場所です。当日、付近を歩いてみたという岡村監督ですが「全然見覚えがない建物ばかりで。だいぶ変わってしまったんでしょうね」とのこと。奇しくも聖地でのイベント開催が、東京の移り変わりの早さを実感させるものとなりました。

当時の記憶もだいぶ曖昧になり「覚えてない」「そうだっけ?」といった言葉も度々聞かれる中、当時の雑誌の切り抜きをピックアップしたり、来場者からの質問を受けて話を続けるうちに、初めて聞く話や思いがけない設定話も飛び出しました。まだまだ新しい発見があるとは、改めて作品の深さを感じるイベントとなりました。

最後に登壇者のあいさつでイベントが締めくくられました。

小森「春のイベントで10年後にお会いしましょうと言いましたが、思いがけず半年後にお会いしてしまったので、また9年半後にお会いしましょう(笑)。今週末には『ANEMONE/交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション』が公開されます。僕もちょっと手伝ったので、ぜひ見に行ってください。よろしくお願いします」

岩原「久しぶりにDTBの関係でやって来ましたが、こんなに愛されている作品に関われたことを本当に嬉しく思います。自分のキャラクターデザインが動くことにも感動しましたし、それがこんなに愛されているというのは本当にすごいことです。これからも精進して、他の作品にもつなげていきたいと思います。ありがとうございました」

岡村「こんなにたくさんの人に来ていただけるのは不思議でもあり、とてもありがたいと思っています。10年後にまた会いましょう。ボンズの2019年4月の新番組『キャロル&チューズデイ』で絵コンテをやることになりましたので、よかったらそちらも見てください。ありがとうございました」

ボンズ20周年記念展では、DTBの複製原画やDVDパッケージ原画などを展示中。メッセージコーナーでは小森さん直筆の黒も見ることができます。また、作品解説とスタッフインタビューで内容盛り沢山の書籍も貴重な一冊です。同記念展でのDTBの展示はPart 1のみ(11月12日まで)となっていますので、ファンの方にはぜひお早めの訪問をお勧めします!

(記事 笠井美史乃)

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