春の夜、猛者と精鋭は再び集い… 「あれから10年―『DARKER THAN BLACK -黒の契約者-』トークナイト」イベントレポート


3月12日、阿佐ヶ谷ロフトAにおいてトークイベント「あれから10年―『DARKER THAN BLACK -黒の契約者-』トークナイト」が行われました。『DARKER THAN BLACK -黒の契約者-』(以下、DTB)の放送は2007年4月からの2クール、パッケージ最終巻は2008年3月に発売され、4月にはロフトプラスワンにてファンイベントが行われました。あれからもう10年になるんですね。この日、100人ほどのキャパの会場は満員。観客席は熱い思いを持ったファンの熱気でいっぱいでした。

この日登壇したのは、大山良プロデューサー、大薮芳広プロデューサー、脚本家の大西信介さん、キャラクターデザイン・総作画監督の小森高博さん、そして岡村天斎監督です。司会を務めたのはアニプレックスの南さんです(10年前に行われたトークイベントでも同じく司会をしていらっしゃいました)。イベント開始時には、同作の脚本とシリーズ構成(2クール目)を務め、残念ながら2015年に逝去された菅正太郎さんへの献杯が捧げられました。


(左から)南さん・大薮さん・小森さん・岡村監督・大西さん・大山さん

■企画からの紆余曲折、あの魅力が生まれた裏側とは?

さっそく南さんが取り出したのは、同作の企画書。当初のタイトルを見ると「201BL」(!)だったり、「黒の契約」だったりと、紆余曲折の様子がわかります。何度も会議が行われた末、MBSの竹田靑磁プロデューサーの意見で「DARKER THAN BLACK」に決定。その表記も当初は揺れていて、すべて大文字にすることが確定したのは、かなりギリギリになってからだったとのこと。

同作の特徴の一つに、2話1エピソードの構成で同じシナリオライターさんが前後編の脚本を書いているということがあります。岡村監督が「(DTBという作品は)各話ごとの物語を各ライターさんが描くというスタンスをあくまでも貫きたかった」というように、個性的な物語の積み上げが作品の懐の深さになっています。

大薮「野村(祐一・脚本家)さんに人情話・ハートウォーミングもの、菅さんに設定の難しいところを何とかクリアしてもらう感じでした」
大西「それぞれのライターさんの得意な方向で、うまい具合に振り分けられていたんじゃないかなと思っています」

キャラクターデザインは、漫画家・岩原裕二さんが原案を担当し、それをもとに小森さんが描き起こしています。これは細かいところでかなり修正を重ねたとのことです。

小森「岡村さんのチェックが厳しくて、特に未咲は大変でした」
岡村「僕の発注の仕方が捉えようがないというのは確かにあったと思う。キリッとしているんだけどかわいいとか。そういう、謎の矛盾したところが多かったので」
小森「いわゆるアニメっぽいかわいい絵と言われたらわかるんだけど、大人のお姉さんでキリッとしていて…という。(監督が)パンツスーツの参考に雛形あきこがやっていた刑事ドラマのDVDを持ってきて、これだ!って(笑)言われて見ていました」

黒の設定にも細かな注文が多く、白シャツ・鎖骨・ヘソチラは「鎖骨担当」を自称する大山プロデューサーのこだわり。2期で長髪無精髭の黒が出てきたときには、大薮プロデューサーと共に「早くキレイにならないかな」と思っていたそうです。

岡村「(2期は)どんなスタートが一番効果的かなと、色々試行錯誤の結果”汚れ”黒にしたら、みんなからひんしゅくを買ったんです……。かっこいいですよね、汚れた方が」
小森「これしかないじゃん!こんなカッコいいヤツいないと思って描いたのに、いろいろなところから評判が悪くて」
南「ただでさえ玄人好みの作品が……」
大山「白シャツ鎖骨だけにはこだわってきたのに!」

■オーディションでの演技指導「新鮮で楽しかった」

続いて、壇上には黒役・木内秀信さん、銀役・福圓美里さんがご登壇。スペシャルなゲストの登場に会場の驚きと歓声は大変なものでした。DTBは10年経っても思い入れの深い作品だというお二人が、当時の思い出を語りました。


(左から)大薮さん・小森さん・岡村監督・福圓さん・木内さん・大西さん・大山さん

木内「演じていた時は先がどうなるのかあまり教えてもらえず、監督に聞いても『さあ』みたいな薄い反応しか返ってこなくて(笑)。謎だらけの作品でしたね。台本をいただくのが毎週楽しみでした」

これは音響監督の若林和宏さんが敷いていたやり方で、岡村監督もそれに追随していたのだそうです。木内さんによると、かなり話数が進んだある日の収録直前、若林さんに耳元で「実はお前は契約者じゃない」とこそっと言われ、「はぁあ?!」とショックのまま収録に入ったというエピソードも。

そんな木内さんが、オーディションで最初に言ったのは、1話冒頭の「お前らの顔を見ていると、反吐が出そうだ」というセリフ。その時のことがとても印象に残っているそうです。

木内「最初は上から(見下すように)言ったのを、『並列でやってくれ』とディレクションを受けて。あぁ、こういう演出家さんがいるんだと。声質だけじゃなく、そういう芝居のことも見られたというのが、僕としてはすごく楽しくて、ワクワクしたんです」

岡村監督の「銀のセリフが少なくて申し訳ないから」という理由で次回予告を担当していた福圓さん。しかし、当時、決まった秒数に文字数を入れることができず収録の際には毎回ビクビクしていたと言います。

福圓「当日渡されるんですよね、予告原稿って。スタジオの隅でストップウォッチ持って練習して。なかなか決められたタイムぴったりにならない。でも今は出来るようになったんです!だからいつもタイムがピッタリになる瞬間に、DTBのことを思い出すんですよ。今だったら上手に出来るのに!って」

■好きなキャラクター&好きなシーン放談

続いては、改めて「好きなキャラクターと好きなシーン」についてのトークが繰り広げられました。その一部をピックアップしてご紹介しましょう。

福圓「黒のことは当時も好きでしたが、男の人としてカッコいいとは思っていなかったんです。でも今見直したら『ヤバい、付き合いたい!』って思っちゃいました(笑)」

岡村「(アンバーのキャラクターについて)ほとんど野村さんにスパルタで考えてもらいました。つかみどころがなくて、高みから見据えているんだけど心の底では少女、というくらいのイメージでしたね。(若くなっていく設定は)割と最初から決まっていました」

大山「7・8話は探偵の話でしたが臭いフェチの話でもあるので、それを2話かけてやるのはどうなんだろうと思っていたんです。でも脚本(大西さん)、絵コンテ(五十嵐卓哉さん)、演出(金子伸吾さん)と出来ていく中で、アニメーションの”足し算”みたいなものが感じられて。醍醐味を感じた回でした」

小森「(好きなシーンは)1つに選びきれなくて、特に好きな23話を挙げました。終わりに向かっていく前の話で、ちょっとホッとするところもあり、いろいろな契約者も出てくるし、未咲と黒が焼肉とか、盛りだくさんで良かったと思いました」

岡村「(好きなシーンに22話・ノーベンバー11の最期を挙げ)最近ここを通りかかったら、改修されてしまい面影がなくなっていたんですよ。寂しい限り。(DTBは)今では行けない東京」

大西「(好きなシーンに19話・黄と志保子の川辺のシーンを挙げ)なかなか書けなくて苦労したので自分としても見返したくないエピソードなんですけど、このシーンについては見返したくなります。志保子の記憶の部分については、菅さんのアドバイスがあって書くことができました」

大山「(好きなシーンに6話・ハヴォックの拷問シーンを挙げ)黒がまずハヴォックの指を折るんです。そのあと料理を作って、ハヴォックにチャーハンを渡すんですが、(レンゲを持てなくて)食べられない。で、食べさせてあげる。そのあと(会話の流れで怒った黒が)自分で食べるんですよ。最後、”落として”ますよね、ハヴォックを(笑)」

木内「6話ではまだ契約者じゃないと知らされていなかったので、そんなに感情的になっていいのかなと思い、抑制しながら感情を出すのが難しかった。後から、もっとやっても良かったんじゃないかと思ったんですけど」
岡村「多分、抑制しているところが良かったんですよ」

■10周年特別企画、ニュータイプ誌描き下ろし公開発注

最後は雑誌「ニュータイプ」とのコラボによる10周年特別企画。誌面に掲載する描き下ろし版権イラストを会場で発注しようというものです。同誌編集部の鳩岡さんが登壇し、いくつかのイラスト案をプレゼン。登壇者の皆さんと来場者の反応とで、どのようなイラストにするか案が絞られていきました。

最終的に、「当時のDTBらしいカッコいいバージョン」と「10年後の黒たちを描くバージョン」の2つで拍手で決を採ったところ、圧倒的に後者が多い結果に。ただし、黒の長髪・ヒゲはナシ、ということに決着しました。ニュータイプ2018年4月10日発売号に掲載されるとのことなので、どんなイラストになるか楽しみに待ちたいと思います。


今回ご登壇の皆様。懐かしさだけではない熱気の満ちたイベントでした

改めて、まだまだファンの熱気が高いことが感じられた今回のイベント。福圓さん曰く「今でもDTBを愛している猛者と精鋭しかいない」場所で、10年という時間を飛び越えた熱い同窓会となりました。岡村監督は、登壇者・来場者の皆さんからの3期を期待するプレッシャーにちょっと腰が引けつつも、集まったファンへの感謝の言葉を述べました。

岡村「こんなにたくさんの人が今だに応援してくれていることに感無量です。この作品ほど自由に作らせてもらったことはなかったし、すごく楽しく作れたので、良い思い出になっています。本日はどうもありがとうございました」

新作は難しいとしても、まだまだお話を聞きたい、語ってほしいというファンは多いはず。上映会など、何らかの形でまたイベントが行われることを期待したいと思います。

(記事 笠井美史乃)

■「DARKER THAN BLACK」公式サイト http://www.d-black.net
© BONES・岡村天斎/DTB製作委員会・MBS

タイトルとURLをコピーしました