今週の特集は、夏の終わりの夏休み映画『ペンギン・ハイウェイ』です。鮮烈な印象を残す予告編で興味を持った方も多かったのではないでしょうか。若手スタッフが活躍するスタジオコロリド初の長編アニメーションであり、新しいセンスと才能が存分に発揮された一作と言えるでしょう。
前半はネタバレなしのトークとなっています。ネタバレを避けたい方は、26分45秒まででストップしていただくのがおすすめです。
■森見登美彦作品の中でも毛色の違った一作
那瀬「『四畳半神話大系』とか『夜は短し歩けよ乙女』はファンタジーと言っていいのかな、登場人物が見る夢の世界というか。それを情感豊かに描いているというところが大きかったと思うんですけど。『ペンギン・ハイウェイ』はあくまでSF作品なんですよ。森見作品でもそれを銘打っているのはこれだけで。でも私、原作を読んだ段階ではSFを強く感じることはなく、あくまでファンタジーと思って読み終えてしまったの。だからこれをSFと頭から銘打って、どうアニメ化するのかがすごく不思議で。数ある作品の中でも、けっこう画が予想できない一作だったんですよ」
くむ「出来上がった作品を見る限りは、最初からもうこの絵が浮かびそうなのかと思っていました」
那瀬「登場人物が小学生というのもこれだけなんですよ。他の作品は“腐れ大学生”という、森見作品ではよく出てきますけど。大学生らしいモラトリアム感でモヤモヤしている方が得意なイメージがあったから」
くむ「確かに、そういうキャラクターいっぱいでてきていますよね」
那瀬「だから読んだ時もすごく新鮮な気持ちだったし、これが映像になるというのはどんな感じなんだ?というドキドキはありました」
くむ「見ていて、どこか懐かしいジュヴナイルものなんだ、この作品、と思ってすごく腑に落ちたんですよ」
■憧れ、そして去っていく…少年にとっての「お姉さん」
那瀬「最近のライトノベルとかで憧れのお姉さんキャラが出てきても、この作品のお姉さんほど、なんて罪作りな女性なんだって思うことはなかったから。この感覚は…なんすかね? 罪深いね」
くむ「この感覚が昭和感というか、ジュヴナイル感なのかなという気がしたんですよね」
丸井「男の人が影響を受けやすい子供の頃の印象というのを映像化してくれたのかなという感じがしました」
那瀬「こういう恋を男どもはしてきたよと、女性たちに教えてくれる作品はなかったから、いろいろ新鮮に感じたよね」
くむ「男性目線で見るとすごくいい映画ですよ、私の中ではね」
那瀬「もう根本的に男性と女性で感想が違うんでしょうね」
くむ「言ってしまえば過去の経験に基づくものだったりするわけじゃない。実際に経験しているしてないは別として。年上の女性に憧れたいという煩悩みたいなものでもいいんですよ。例えば『999』のメーテルがそうだったのかもしれないし。そういう、憧れて、去っていく存在なわけですよね。いつまでも居てくれるわけじゃない。今の作品だったら居てくれるわけですよ、ちやほやしてくれるんですよ」
蒔田「そこで去るからジュヴナイルっぽいんじゃないですか」
丸井「心に跡を残していくんですね」
くむ「そうなんですよ、成長の一個になっているわけですよね、彼の。だから、めっちゃいいモノをこの平成最後の夏休みに見せてもらったなという感じです」
■長編作品デビュー作、若き才能・石田祐康監督
那瀬「すごい感覚型アニメーターという感じが私はしています。アニメの見せ方、面白さを感覚的にわかっている人なんじゃないかなと思いますね」
くむ「若手では評価の高い方ですね」
那瀬「あまりいないんじゃないかと思います、こういう人。最近の日本のアニメって、写実的だとかリアリテイみたいなところが強い気がするんですが、(石田監督は)ある意味ちょっとカートゥーンぽいというか」
蒔田「すげえわかる。『フミコの告白』で思ったのが、実写だとできないし、あの勢いとスピード感は文章でも出ない。アニメーションだからできることを短い中に詰め込んであって。筋はすごく単純なんだけど、めっちゃ楽しかった」
丸井「私も、セリフが少ないのにこんなに目が離せないというか、瞬きできない、カートゥーン的なものを感じました」
那瀬「なんかこう、理屈じゃない面白さみたいなものを持っている人だなと思うので。特殊な人材じゃないかなと思いますね」
蒔田「今回の作品も、クライマックスとかは感覚的に気持ちいい、楽しいと思えるシーンがすごい多かったので。やっぱそういうところが得意な人なんだろうな」
くむ「オープニングや予告を見ても、勢いだけで引っ張ってくる実力を持っている人なんだと思います。でも、今まで短編しか作っていなかった人が長編アニメを作ろうとしたらどうなるのか、というところで。実際、いろんな人たちの力で今回の作品は出来上がっているわけですが、いやあうまく回ったね。長編アニメ1作目でこれほどすごいものができてしまったら、この後どこまで進化していくのか、すごく楽しみに思えてきました」
ミステリアスなものに対する憧れと探究心。おっぱいと「海」。死と将来。一歩ずつ進むアオヤマ君の姿に懐かしさや可愛らしさを感じ、自分がすでに大人であることを自覚してなお、昨日の自分を超えられる自分でありたいと思わせてくれる作品でした。心に「少年」か「ペンギン」か「憧れのお姉さん」、もしくはその全てを持つ人は、ぜひ劇場で観ていただきたいと思います!
(笠井美史乃)