考えるな、感じろ。そしてもう一度考えろ。そこ☆あに『海獣の子供』特集まとめ

今週は劇場作品『海獣の子供』特集です。全5巻の原作を主人公・琉花の視点を中心としたストーリーに組み立て直し、削がれてしまった設定やエピソードはあったものの、1本の映像作品として圧巻の世界を見せてくれます。

今回から新パーソナリティ中川結美子(なかがわゆうこ)さん・米林明子(よねばやしあきこ)さんが参加しています。よろしくお願いします!

そこあに「海獣の子供」特集 #588
「そこ☆あに」588回目は『海獣の子供』特集です。 原作は五十嵐大介による漫画。2006〜2011年月間IKKIにて連載全5巻完結済みです。 今回のアニメーション映画は、渡辺歩監督・スタジオ4℃制作にて2019年6月7日公開となりました。 ...

■考えるな、感じろ…理屈でなく精神で観る作品
くむ「“わからない”ということがわかる、というのは、パンフレットを読んで納得という感じでしたね。複雑なものを自分の中で解釈しようとすると、まあいろんな解釈ができるんだけど、それをしなくてもよかったんだというふうに思えたというか。でもなんとなく、終わりまで観るとそんな気にはなるんだよね」
那瀬「私は、すごく嬉しかったのが、子供の頃の気分に戻れたというか。不思議なものがただ不思議で楽しい、みたいな感覚をすごく久しぶりにこの作品で味わえたんですよね」
小宮「私は逆でした。子供の感覚のまま今生きている感じ、といったら変だけど、もともと感性よりのタイプだから、すごい気持ち悪くなっちゃったんだよね、感覚的に。濃い感じが押し寄せてきたの。わからないことがわかっているのに、さらにわからされた、みたいな感じ」
那瀬「子供が見たらそういう感じになったのかなあ」
小宮「なんかね、すごく濃いものを飲まされた感じがすごくあって、どんよりというか。いい意味でね」
那瀬「濃いものであることは絶対間違い無いよね」
小宮「そう。嬉しさ、というよりは恐ろしさみたいなほうが強かった。わかっていたけどやっぱりそうなんだ、みたいなところで愕然とするというか。なんか自分が未知なるものだということをさらに思い知らされているような感じ。だから、自分の置かれている状況によって変わる映画だなと」
那瀬「ほんと、そう思う」

■相反するものが共存する、でもそれって実は同じもので…?
那瀬「意図的に空とかの色を黒くしていたり、個人的には、江ノ島水族館の裏側を描くというのもちょっと面白いなと思いました。あくまで、表側のキラキラしたとこじゃないよ、という要素をそこにも感じましたね」
中川「打ち上げられた魚たちとかが、けっこうグロテスクで、粘膜とか目とかを印象的に描いていたので。魚とか、亀とか、海の生き物たちの表情もすごいよくわかって、どこに行きたいんだろう、なにがしたいんだろうという、セリフはなかったんですけど、訴えているものが色々あるんだなと思いました」
米林「私は、映像がすごいきれいだなと思って、うっとりして観ていたんですけど。その中でも、わたし自身も海が好きだから、海とか夕焼けとか、その鮮やかさがとっても好きだったのと。あと、星空がプラネタリウムにいるみたいだなと思って」
那瀬「米林さん的には、怖いとかよりは、きれいだなのほうが先に立った感じだったの?」
米林「クライマックスあたりのシーンは暗い色彩で描かれていて、うわあ、ってなりましたけど。それよりも、今印象にあるのはきれいだったな、という感じですね」
那瀬「これも、どっちがよく見えるかな、だと思いますけど。闇と同じくらい、光もたくさんあるんですよね。マンハッタンにクジラがいるシーンとか。見つけて欲しいから光るとか。光るというのもすごくキーワードにはなっているんですよね。これはストーリーに準じるものだろうけど。琉花が光を見つけるためのストーリーでもあるんでしょうからね」
小宮「そこの対比がすごいうまいよね。やっぱり、隣り合わせなのかなと思う。ちょっと不思議で怖い感覚と、きれいだなと感動する感覚は近いもので、一歩そっちに行っちゃうと怖かったり、美しかったりというのが、人によって紙一重なところなんだというのも実感しながら見ていたね」

■声優ではない役者さんの演技がつくる世界観
中川「わたし、デデ様の富司純子さんが、すごい上手いなと思って。映像作品とかを見てもいつもべらぼうに上手いんですけど。何の違和感もなく演じられていたなと思って。役者さんがアニメのお芝居するって、けっこう難しいと思うんですけど」
くむ「サマーウォーズ以来ですよね、アニメの出演は」
中川「そうなんですね。Twitterではお父さん役の稲垣吾郎さんがわからかなかったと書いていらっしゃる人が多くて。私、稲垣さんのファンなので、吾郎っちいるなという感じだったんですけど」
くむ「今回はね、ほとんどわからなかったですよ」
那瀬「芦田愛菜ちゃんですら、知っていたけど、そうだよなって後から思ったくらい」
くむ「逆に、デデさんだけすぐにわかった程度で。他のキャラクターはほぼ意識せずに聞けたというのが、ある意味すごかったんじゃないかと思ってますけどね」
那瀬「どうしても、実写の役者さんほど姿が思い浮かんでしまうじゃないですか。そういうのを全然想起させない絵力というか。作品と声優の相性というのはやっぱりあるなと、改めて感じる作品でしたね」
くむ「声優以外のキャスティングをやるんだったら、ここまで徹底してやってほしいよね」
小宮「アニメ作品なんだけど、ちょっと実写みたいな感覚が途中からあって。そこもすごく、役者さんと相性がよかったのか、そういうふうにつくっているのか、よくわからないですけど」
那瀬「お芝居の仕方とか、目線によっては実写っぽいというのもわかるけど。この作品は絶対実写じゃできないと思うから。普段アニメ見ない人にも、ちょっと見て度胆を抜かれて、トラウマになってほしい(笑)」

緻密な描写と美しい美術、さらに細かな演出・アイテム・表情など、あらゆる場面に情報が満ちていて、一度では消化しきれないかもしれません。でもまず一度は劇場の大画面であの世界に飲み込まれて、溺れてみたりしておくといいんじゃないかと思います!

(笠井美史乃)

タイトルとURLをコピーしました