今週は、ただいま劇場公開中『Fate/stay night [Heaven’s Feel] Ⅱ.lost butterfly』特集です。初心者にはさすがに敷居の高さがありますが、長年のファンにとってはツボを押さえた構成から演出の細かい部分まで、非常に満足度の高い作品になっています。絶賛のポイントをぜひお聞きください。
これからFateに入るならどこから手をつけたらいい?という初心者向けアドバイスもあります。ただし、トーク内容にはネタバレを含みますのでご注意ください。(この記事は核心に触れる部分はありません。)
■アニメだけでも10年以上の歴史。どこから見たらいい?
蒔田 「どこから入ればいいのかって、かなりFateは難しいんですよね。だって(時系列的には最初の物語である)Fate/Zeroから見ると、今回の話は驚きが減っちゃうところがあったりするので」
たま「ちょうどネタバラシですからね、Zeroが」
蒔田「この『Heaven’s Feel』から見るのもあまりオススメしないかな」
くむ「ゲーム的にはどんな流れなんですか? (最初の)Fateルートの途中から今回のHeaven’s Feelに行くわけではないんですね」
たま「ないです」
水貴「順番が重要です」
たま「ルートが3本ではあるんですけど、その3本が一つの話になっているので、どれが先とかではなくこの流れじゃないとダメなんですよ」
蒔田「ただゲームとしてはルートの体を取っているので。セイバールート(Fate)をやった後、凛ルート(Unlimited Blade Works)が解禁されて、凛ルートを超えたら桜ルート(Heaven’s Feel)が解禁されて、という流れになります。で、Fate/Zeroは後付けされた前日譚なので」
くむ「なるほど。じゃあ本来ならそのルートで見るのが作者が考えた通りの流れになるわけですね」
蒔田「アニメで本当に一から楽しみたいなら、『Fate/stay night』、『Unlimited Blade Works』テレビ版を見て、この『Heaven’s Feel』に行くというのがゲームの流れとは同じ。ただ、両方とも2クールで劇場版は来年2020年に完結という…。長!」
くむ「今回私は、記憶に残っているのはZeroだけだったんですよ。なので、Zeroを知っている上で見るHeaven’s Feelは非常にわかりやすくてよかった」
水貴「ああ、なるほどなるほど」
蒔田「ぶっちゃけZeroから見ても楽しめるんですよ。でも、原作のPCゲームだとびっくりするんですよ、Heaven’s Feelルートをやると。そのびっくりを味わってほしいなという欲望がある」
■ある意味主人公! 慎二の歪み方が輝いていた
水貴「良かったですよね、第1章から心理描写もきちんと描かれていて。今までの作品だと道化役という感じでしかなかったのが、やっときちんと描かれて。しかも第2章でこれで。主人公ですよね。さすが、上から3番目に名前が来る男、という」
たま「ただ嫌なヤツというわけじゃなくて、屈折した心理みたいなのが見えるのがすごく嬉しかったですね。士郎のことが嫌いな人でしょ、みたいにも取られかねないですけど、どっちかというと逆じゃないですか」
蒔田「そうだね。だって、慎二を見てくれているのは士郎だけ、というレベルで描かれているから。その辺すごいわかりやすくなっていると思う。この子は士郎に対して、他の人よりも特別な思いがあるんだろうな、というシーンがピックアップされているのがすごく良かったなと」
たま「うん。ファンディスクの『hollow ataraxia』でやっとそこらへんの設定がカバーされているようなキャラクターで。そっちでは割と慎二のいいところとか美徳が出ていて、こういう状況じゃなければ結構いい子だったのかもしれないね、というのも見えるんですけど。本当にそこが描かれないというか、出る暇がないですよね」
蒔田「桜も周りのせいで今の状態になってしまったというのがあるんですけど、慎二も同じようなもの。現れ方は違うけれども、慎二のせいじゃないんだよ、こんなことになっているのは、というところが結構あるので。それを匂わせる映画になっているのがすごくいいなっていう」
水貴「それが図書室のシーンですごく現れていましたよね」
たま「一生懸命、魔術師として修練を積んだんですよ、彼。でも、結果はご覧の有様じゃないですか」
蒔田「一般人なのに優秀で頑張っていたんだけども、彼には魔術が使えなかった。しかも途中から家でも君は使えない子だからという扱いをされ続けた、という人なんですよ」
たま「元々、桜が家に来た時も、しっかり守ってあげようみたいな意志で立ち回っていたはずなんですけど。結果、桜ちゃんの方が優秀だったせいでああなっちゃったんですよね」
くむ「その辺りをちゃんと今回は拾ってきたということですね」
■ヒロイン・桜、その可愛さ、エロさ、そして黒さ…
蒔田「いやまあ、エロいのも必要なんですよ。絶対要るんですよ。だから僕がプレステ版にすぐ行かなかったのはそういう理由なんです。一番好きなHeaven’s Feelが全年齢になったら絶対に面白くないと思ったので」
たま「そうですね。Heaven’s Feelが最後のルートだというのは、前2つのキレイなところの裏側にこういうものが流れていたんだよ、という裏返しみたいなところもあって。だから、綺麗な2つのルートの逆側にあるだけの重さが必要なんです。ウエットさとか汚さみたいな。それが全年齢版だと、やっぱりちょっとパンチが足りなくて」
蒔田「お前ら、セイバールートやって楽しんで、凛ルートやって凛かわいいなと思ってたんだろ。桜こんなことになっててんで、という。ひっどい話だよね」
たま「ね。Fateって全員を幸せにするルートがないゲームだと当時から言われていて。誰かを選ぶということは誰かを選ばないことですよ、という話でもあるんですよ。だからセイバーと凛を取った場合、桜は選ばれていないわけですよね。彼女はプレイヤーがセイバールート凛ルートをやっている時に、無意識的に士郎が救わないことを選択している女の子だったんだよということの、痛いしっぺ返しを食らうのがこのルートだから。なるべく、いてえな!というのは深い方が良くて。そういう意味ではここの描写からは逃げられないというのはありますよね」
くむ「救えないよね、ここまできたら」
蒔田「うーん、どうするんだろう…。でも“どうするんだろう”というのを爽快に持っていくとか何とかしちゃうというのは、奈須さんがとっても得意。というかだいたいそれ、みたいなところがあるので」
くむ「まあその辺は第3章のお話になっていくわけですね」
わかりやすい情報整理と丁寧な雰囲気づくりで、原作ゲームの気分をうまく描き出していると、長年のファンも絶賛する作品。第3部公開までは1年以上待つことになりますが、それだけの価値がある作品になるはず! と期待して待ちたいと思います。
(笠井美史乃)