2025年4月6日(日)、雑誌『月刊ニュータイプ』創刊40周年記念イベントシリーズ「Matching Newtype!」第1回目が新宿・ロフトプラスワンにて開催されました。
世に創造物を送り出すクリエイターが、各々の仕事紹介とともに、テーマに沿った形で対談をするというイベント企画です。
第1回のテーマは「アクションを作る、アクションを描く、アクションを演じる」。今回は、ちょうどイベント当日より放送開始の新番組『LAZARUS ラザロ』監督の渡辺信一郎さんと、『ジョン・ウィック:コンセクエンス』の撮影に日本から参加したファイトコレオグラファー・川本耕史さんをお招きして、「アクションを映像作品で表現すること」についてトークが繰り広げられました。
(写真左から)司会役のライター/翻訳者 傭兵ペンギンさん、 渡辺信一郎監督、ライトコレオグラファー 川本耕史さん
(プロフィール)
渡辺信一郎(わたなべ しんいちろう)/監督・演出
1965年京都府出身。これまで手がけた主な総監督・監督作品に『カウボーイビバップ』、『サムライチャンプルー』、『スペース☆ダンディ』、『坂道のアポロン』、『キャロル&チューズデイ』など。4月より最新監督作『LAZARUS ラザロ』放送中。
川本耕史(かわもと こうじ)/ファイトコレオグラファー
大阪でキャラクターショーを経て上京、フリーのスタントマンとして様々なアクション監督の下で経験を積む。多くの海外作品にも参加。2013年にユーデンフレームワークスに所属。下村勇二監督の短編作品「HERO」でアクション監督デビュー。現在は、映画、ゲーム、CM、ドラマなどのジャンルでアクション演出、スタントで活動する。
主な担当作品に、『ジョン・ウィック:コンセクエンス』(’23)、実写版『ONE PIECE』、『るろうに剣心最終章 The Final』(’21)、『るろうに剣心/the beginning 』(’21)、『レイジング・ファイア』(’21)、『キングダム』(’19)ほか多数。
アクションの原点はカンフー映画
今回のテーマ「アクション」について、お二人の原体験は何だったのでしょうか。渡辺監督は小学生の頃にブルース・リーの一大ブームに乗った世代。近所の竹林から切り出した竹でヌンチャクを手作りするほど夢中になりましたが、早すぎる“ブルース・リーロス”を経験し、その後ジャッキー・チェンで立ち直ったと言います。
川本さんは父親の影響で幼い頃からジャッキーの洗礼を受けて育ち、高校時代、兄に誘われてアルバイトで参加したウルトラマンショーが、アクションの道へ進むきっかけとなったそうです。現在は「ファイトコレオグラファー(=格闘の振付師)」として、さまざまな映像作品におけるアクションシーンの演技・演出、カメラワークまでコーディネートしています。
渡辺監督「どんな国に行っても“ジャッキー”は共通言語なんですよ。アジア人なんてほとんどいない街で、子供たちに『Are you Jackie?』と声をかけられました(笑)。アクションは言葉がいらない。身体が言語だから、どんな国でもわかるんですね。アクションは偉大だと思いました」
川本さん「海外のスタントマンと話すと、よく『カウボーイビバップ』や『サムライチャンプルー』を挙げて“こういうアクションがやりたい”って言われるんですよ。(渡辺監督の作品も)海外のアクション関係者にしっかり影響を与えていると思います」
『LAZARUS ラザロ』アクション監督の仕事の裏側
渡辺監督最新作『LAZARUS ラザロ』(以下、『ラザロ』)は、『ジョン・ウィック』シリーズで知られるチャド・スタエルスキ監督がアクション監修として参加していることでも大注目の1本です。この豪華な共演はどのように実現したのでしょうか。
「今やるならアップデートされたアクションをやりたい」と考えた渡辺監督は、今もっともいいアクションを作る人としてスタエルスキ監督にオファーを出しますが、相手はハリウッドの大物。「話だけでも聞けたら」と控えめな姿勢でいたところ、オンラインで話ができることになりました。
渡辺監督らはアクションを面白くするポイントなどについて教えを乞い、いろいろと話を聞いたところで、スタエルスキ監督の方から「ところで、あとは何をやればいいんだ?」と、まさかの前のめり。実はスタエルスキ監督は『カウボーイビバップ』や『サムライチャンプルー』の大ファンだったそうで、「たくさんインスピレーションをもらったから、今度は僕が返すよ」と快諾してくれたそうです。
実際の制作では、スタエルスキ監督のスタントチームがアクションシーンを演じ、撮影・編集した映像を渡辺監督の元へ送付。その映像を元に、アニメ制作チームが作画を行う、という流れで行われました。モーションキャプチャやロトスコープではなく、映像を見て動きを理解し作画していることに渡辺監督のこだわりを感じます。
会場では、『ラザロ』のために制作されたアクション映像の一部が特別に上映されました。通常の速さでの動きに加えて、一つひとつの動作をゆっくり演じる映像も収録されており、渡辺監督は、作画する上で「これがすごく助かった」と明かします。
作品の中にアクションを入れる上で、渡辺監督は「作品が躍動する瞬間」を大事にしていると語りました。
渡辺監督「ある時点でアクションが始まると、作品が躍動するじゃないですか。停滞していた時間が急に動き出すような感じで。その瞬間が好きで、いつも大事にしていますね」
一方の川本さんは、「真似したくなるアクションを作る」ことを大事にしていると言います。ジャッキー・チェンのように子供が真似するだけでなく、大人にとっても心を刺激されるアクションはあるものです。
川本さん「(先行で4話まで『ラザロ』を見て)アクションシーンが本当に素敵で、僕からすると真似したくなるシーンがたくさんありました。いつかラザロにインスパイアされたシーンを作るかもしれません」
カッコいいアクションには「アンパンマンマーチ」
イベント終盤には、来場者から寄せられたさまざまな質問にお二人が回答しました。
Q:アクションのテンポを考える時に、音楽からインスピレーションを受けることはありますか?
川本さん「撮影したアクションを編集する際には、実際にいろいろな曲を合わせてみます。今人気の曲なども使いますが、『アンパンマンマーチ』なんかが意外と合うんですよ。逆に、完全に無音にしてみることもあります。それで乗れないところがあると、僕の求めるリズムではないなと思って再撮影したりします」
渡辺監督「『サムライチャンプルー』の時などは、先にそのシーンで使う曲を決めてしまい、曲に合うノリのアクションを作っていましたね。ずっとビシビシッと動き続けるより、緩急のある方が合ったりする、というのはありました」
Q:20代の頃、どのような志を持っていましたか?
川本さん「スタントの頃から、谷垣健治さん(『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』など)や下村勇二さん(『キングダム』『ゴールデンカムイ』など)のようなアクション監督を目指していました。スタエルスキ監督のように新しいアクションのスタイルを生み出すまでになりたいですが、まだ実現はできていませんね」
渡辺監督「20代は制作進行で泥のように働いていました。でも多分、その頃から大監督になるつもりだったんじゃないですかね。同僚の赤根和樹君(『天空のエスカフローネ』『コードギアス 亡国のアキト』など)と2人で、宮崎駿がなんぼのもんじゃい!と、若者にありがちな妄想を抱いていました(笑)。でも、言っていれば叶うもんですよ」
Q:渡辺監督、実写映画は撮らないんですか?
渡辺監督「アクション業界の方々は、情熱がすごいしアイデアも豊富で、一目置いています。ぜひ一緒にお仕事をしたいと思っています。アニメのスタントをやってもらうのも、僕が実写の世界に混ぜてもらうのもありですね。僕が監督、川本さんがアクション監督で作品を作りましょう! でも、ずっと海外にいらっしゃるから難しいですか?」
川本さん「そんなことないです。もし海外にいても、チャドさんスタイルで動画を作って送ります!」
アニメと実写、異なる世界に身を置きながら、アクションに対する情熱とリスペクトを共有する渡辺監督と川本さん。新たな創作への可能性も感じられるイベントとなりました。
渡辺監督は昨年、監督業30周年を迎え、それを記念したインタビュー本2冊の刊行が予定されています。川本さんはNetflixの実写版『ワンピース』で刀のスペシャリストとして活躍中。新シリーズの配信が待たれます。二人のクリエイターがどんな“アクション”を見せてくれるのか、これからも目が離せません。
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(ライター 笠井美史乃)
TVアニメ「LAZARUS ラザロ」
4月6日より毎週日曜夜11:45からテレビ東京系列ほかにて放送中。各配信プラットフォームにて配信中。
公式サイト https://lazarus.aniplex.co.jp