両極端だが似たもの同士、水木とゲゲ郎と監督が語る – 『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』大ヒット御礼舞台挨拶


現在公開中の映画『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』の大ヒットを記念した舞台挨拶が、11月30日(木)、東京都調布市にあるイオンシネマシアタス調布にて行われました。2023年は原作者である水木しげる先生の生誕100周年、そしてこの日は命日でもありました。

舞台挨拶に登壇したのは、鬼太郎の父(ゲゲ郎)役の関俊彦さんと、水木役の木内秀信さん、そして古賀豪監督です。

写真:(左から)水木役の木内秀信さん、鬼太郎の父役の関俊彦さん、古賀豪監督

予想を超える大ヒットに、監督「僕が一番驚いている」

同作は公開直後から大きな反響を呼び、SNSでも多数の著名人が話題にしたり、“因習村”がトレンド入りしたり、「入村する(=劇場で観た)」という言葉が生まれたりしています。

古賀監督「僕が一番驚いているかもしれないですね。結構地味な映画だと思って作っていましたので、こんなに反響をもらって、まだ信じられないというか……」

関さん「とにかく完成度の高さにびっくりしたという声が多いです。中には、映画館で見て興奮冷めやらずにもう一度チケットを買って同じ映画館で2回目を見るというお客さんもいらっしゃったそうで。改めて、この作品参加させていただいて幸せだなと思いました」

以前の舞台挨拶で、監督は2回目以降のお楽しみポイントとして2つの「隠れ」要素を明かしてくれました。1つは、画面のどこかにスタッフが遊びで入れた“隠れ妖怪”。もう1つは、目玉おやじ役の野沢雅子さんがどこかで兼ね役をしている“隠れ野沢さん”なのだそうですが……

関さん「あのあと劇場で、目を皿のようにして、耳をダンボのようにして夢中になって観ていたんですけど、全く分かりませんでした! 監督にヒントだけでもうかがいたいと思って、今日はやって参りました」

古賀監督「じゃあ、隠れ妖怪を1体だけ」

関さん「2体いるの?!」

古賀監督「もっといっぱいいます。見切れたり、画面の前を通過するのとかも。1体だけ言うと、水木が最初に屋敷に入ってくるとき、煽りで捉えて屋根の上に。そして水木が画面を塞いで、振り向くといなくなっています」

写真:“隠れ妖怪”の場所を説明する監督。他にもたくさんいる?!

木内さんも、劇場で水木を見ずに背景ばかり見ていたものの見つけられず。しかし、“隠れ野沢さん”には心当たりがあるとのこと。皆さんへのネタバレを避けようと監督だけに伝えますが……

写真:“隠れ野沢さん”を監督に確認する木内さんですが……

古賀監督「違います」

残念! 監督によると、セリフではなく叫びのような声で、少しエフェクトがかかっているとのこと。次回の鑑賞時にぜひ探してみてください。

人間を愛する幽霊族と、人間に愛想を尽かした人間

人間である水木と妖怪のゲゲ郎、種族を超えたバディものとしても見応えのある同作ですが、微妙に変化していく2人の関係はどのようにつくられたのでしょうか。

関さん「2人の気持ちが近づいて関係が深まっていく微妙な言葉のやり取りをするのに、最初からここはこうしようと計算してつくるより、お互いに台本を読み込んで、リハーサルビデオを見まくって、お腹の中に収めてきたそれぞれの役を、現場でマイクの前に立って、お互いにセッションする、それが一番いいと思っていました」

関さんが注目したのは、身を挺してでも愛するものを守ろうとする鬼太郎の父と、この世でのし上がっていくことだけを考える野心家の水木という、一見両極端な2人の関係でした。

関さん「人間には愛すべき部分があると信じているのが幽霊族の鬼太郎の父の方で、人間なんか信用できないと愛想を尽かしているのが人間の水木の方という、ちょっと皮肉な関係が面白いポイントだと思いました。それが、話しているうちにだんだんとわかってくるんです、共通点が。お互い心の中にすごい痛みを抱えているという。でも、それに対して2人とも絶対に負けないという強い信念も同時に持っている。それが共通点だと思うと、両極端に見えていた2人が、実は最初から似たもの同士だったんだと、演じながら思っていました」

写真:終盤の、鬼太郎と狂骨(きょうこつ)が会話するシーンで涙腺崩壊したという関さん

当初は幽霊族であることを意識しがちだったという関さんですが、古賀監督からは「もっと人として水木と接するようにしてください」とレクチャーがあったそうです。

古賀監督「お客さんに昭和へタイムスリップしてほしいと言うことで。あの時代に生きている人間の生々しさのようなものを出していただきたいと思って、その部分を話し合いながらつくっていきました」

木内さん「セリフの量が多くて、独白シーンが何箇所かありまして。それをどう解釈して、お客様にも分かりやすく、どこにセリフを引っ掛けていけばいいんだろうか、ということを何回も自分の中で消化しながら。しかも、尺もセリフの割にはすごく短い。そこが苦労したというか、しっかり考えたところです」

当時の日本映画を見ると、現代よりもセリフが早口であることがほとんどです。そうした言葉やテンポ感から生まれる雰囲気も、昭和らしさを感じさせる演出になっています。

写真:収録前、水木しげる先生の『総員玉砕せよ!』を読んで現場に入ったという木内さん

見る度に新しい発見ができるよう、情報を詰め込んだ

同作はとにかく何度も鑑賞する人が続出しているのが大きな特徴です。登壇者の皆さんが2回目以上の方に注目してほしいポイントはどこでしょうか。

関さん「この作品の中で一番好きなセリフなんですけど、妖怪なんて本当にいたのかとびっくりする水木に対して、鬼太郎の父が『目で見るものだけ見ようとするから見えんのじゃ。片方隠すくらいでちょうどいい』と言うんです。『星の王子さま』の『大切なものは目に見えないんだよ』という言葉ともつながって、とても印象深かったですね。よく人間関係も“腹八分目”と言われますけど、八分目どころか六分目、もしかしたら半分見えないくらいで付き合うくらいがいいんじゃないか、と言われているような気もしました」

木内さん「収録の時は絵に色がない状態で、音楽や効果音もなく、ただ台本を頼りに監督の演出を受けて進めていくんですけど。終わった後、キャラクターデザインの矢田部さんに『キャラクターに命を吹き込んでくださって本当にありがとうございます。インスピレーションを受けて、これから仕上げにすごく力が入ります』という言葉をいただきました。まさに完成を見て、水木がそこに生きているかのような絵をつくりあげてくださったアニメーターの方々に、本当に感謝したいと思います。川井憲次先生も本当に素敵な音楽をつけてくださいました。試写会で初めて見て、皆さんの作品に対する力、愛情が詰まっていることに胸を打たれました。そこも見所だと思っています」

古賀監督「情報をいっぱい詰め込んでいますので、見る度に新しい発見があるかと思います。一つ例を挙げると、(哭倉村は)実在しない架空の村なのですが、制作する上でなんとなくのモデル、この辺りにあるかな、みたいな設定がありまして。どの辺りを想定したのか、よく見るとわかるようになっています。一度目は物語を見ていただいて。一度では情報を全部読み切れないと想定して作っているので、何度見ても面白い映画になっているかと思います」

写真:繰り返し見るとだんだん泣けるポイントが前倒しになる、と語る監督

「生まれてきてくれてありがとう」

舞台挨拶を締めくくるメッセージからも、登壇者の皆さんの作品に対する想いが伝わってきました。

古賀監督「この映画は、実はひっそり公開してひっそり終わる映画でした。でも、これだけ評判を受けて今日皆さんに来ていただいたというのは、やっぱり水木先生の作品の力であると同時に、来ていらっしゃる皆さんに見つけていただいたからだと、本当にありがたく思っております。もしこの映画を見て響くものがあれば、今後もずっと心の片隅に大事にしていただけると、作り手冥利に尽きます。ありがとうございました」

木内さん「(この作品は)人間という妖怪と、本来人間が持つべき心を持っている妖怪とのお話で、僕はその間に入る普通のサラリーマン水木という役を演じています。もちろん水木は水木しげる先生とは全く別人なんですけれども、生誕百年という記念に作られた映画ということもあり、水木先生の実体験がところどころに盛り込まれています。きっと水木先生は妖怪や鬼太郎を通して皆さんに、というか、この世に送るメッセージがたくさんあったのだと思います。その原動力になった実体験がこの記念の作品に盛り込まれていると、僕はそう感じています。なので、そういった部分も多くの方に少しでも感じていただければ、水木先生も喜んでくれるのではないかと思います。すごく奥の深いエンターテイメントです。じっくり楽しんでください。どうもありがとうございます」

関さん「今日は水木しげる先生のご命日ということで、こんな日に皆さんと舞台挨拶でご一緒できることは本当に幸せだと思います。ここ調布市には水木先生の第二のふるさととして、そして鬼太郎たち妖怪のふるさととして、末永くあり続けてほしいと思っております。最後に、ひとこと言いたいのはこれかな。

(鬼太郎の父の声)『鬼太郎、生まれてきてくれて、本当にありがとうな』

ありがとうございました!」

生で聞く鬼太郎の父のセリフは、鬼太郎に、この映画に、そして水木しげる先生をはじめ「ゲゲゲの鬼太郎」という作品に連なるあらゆる人々に向けて無限の愛と感謝を届けるような、パワーに溢れたものでした。心の準備がゼロの観客に圧倒的な涙腺アタックを放つ関さんの言葉で舞台挨拶が締め括られ、会場からは大きな拍手が贈られました。(ライター:笠井美史乃)


<作品情報>
『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』
©映画「鬼太郎誕生ゲゲゲの謎」製作委員会
【原作】 水木しげる
【キャスト】 関俊彦 木内秀信 種﨑敦美 小林由美子 白鳥哲 飛田展男 中井和哉 沢海陽子 山路和弘 皆口裕子 釘宮理恵 石田彰 古川登志夫 / 沢城みゆき 庄司宇芽香 松風雅也 / 野沢雅子
【スタッフ】 監督:古賀豪/脚本:吉野弘幸/音楽:川井憲次/キャラクターデザイン:谷田部透湖
美術監督:市岡茉衣/色彩設計:横山さよ子/撮影監督:石山智之/製作担当:澤守洸 堀越圭文
【配給】 東映
【制作】 東映アニメーション
【作品公式サイト・SNS】
■映画『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』公式 HP:https://kitaro-tanjo.com/
■映画『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』X:@kitaroanime50th

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